俺は今、「不毛な片思い」をしてるんやと思う。
恋愛なんか、くだらんと思っとった。馬鹿みたいに、一人の人間の言動・行動に一喜一憂して振り回されるなんか、真っ平ごめんや。
そんな下らん人間になんかなりたない、そう思っとった。
俺は、心のそこから恋愛を馬鹿にして否定しとった。
なのに、今、どうしようもなく、愛しいと思えるヒトができてもうた。
そう、俺は自分で思とった「下らん人間」に仲間入りしてもうたんや。
そのヒト、先輩に惚れてもうたんや。
先輩のまとう雰囲気や、先輩がおるという、場の空気までも、すべてに胸が締め付けられる。
やけど、それは自覚した瞬間に呆気なく散った。
偶然、先輩が友達と話しとるとこを聞いたときだった。
好きなタイプの話をしていて、図書委員の当番だった俺はカウンターから動けずに、そっと聞き耳を立てていた。
聞き終わったときの絶望感といったら、後にも先にもあのことが一番やと思う。
先輩は一言、「あたし、タイプはやっぱあたしよりも大人な人やなぁ」そう呟いた。
何気ないその言葉が、たった少しの年の差が、重くのしかかった。
でもやっぱり恋なんてモンはすぐに消えてくれるわけでもなく、数ヶ月経った今でも、俺は先輩が好きやし付き合いたいと思っとる。
べつに、自然なこととちゃう?
先輩が少し気にしとる、癖のある、やらかい髪も、日焼けなんか知らんような陶器みたいな白い肌も、
特別でかいワケとちゃうけど綺麗なこげ茶色の瞳も、ふっくらした赤いくちびるも、なにもかも、ぜーんぶ欲しい。
独占したい俺だけのモンんにしたくてたまらん。
窓から差し込む夕日が、俺の影を長く伸ばして、それが余計に目的の場所へ行くことを急かしとるみたい。
部活なんか、サボってもうとるけど、関係なんかあらへん。
走ることはせずに、ゆっくりゆっくりと目的の場所、図書室へと近付いていく。
先輩は、俺とおんなじ図書委員。
本が好きで、おもろい本の内容の話をするときの先輩はめっちゃまぶしくて、どんなときよりも綺麗で可愛い。
そんなとこに、俺は惚れたんや。
だけど、俺は年下で。
ぐるぐると思考の波に飲まれそうになったとき、やっと図書室が見えた。
(ああ、やっとや)そっと、ドアに手を掛けた。
図書室は滅多に人がこーへん。
先輩は、きっとひとりきりでカウンターで本でも読んでるんやろう。
がらり、大きくも、小さくもない音が、手元から響いた。
「光くん……?どないしたん、こんな時間に。まだ、部活やろ?」
案の定、分厚い本を手にした先輩はカウンターにいた。
不思議そうに首をかしげて、俺を見とった。
ああ、それさえも、愛しいと思う俺はかなり重症やと思う。
(すきやで、せんぱい)俺は早足に先輩の目の前へへと歩を進めた。
手を伸ばしたら届きそうなくらい、近い。
カウンター越しに、じぃ、とその顔を見つめた。
かすかに上気した先輩の頬。
後ろの窓からくる夕日の赤い光の所為なんかとちゃう、そう、思いたい。
わずかに俺から視線を逸らして、それでも律儀にこちらを見とる先輩。
触れたてしゃあないわ。でも、今は我慢せな。
「俺、先輩が好きなんっスわ」
すこし、声が上ずっってもうた。
緊張しすぎやろ、俺。
テニス部の先輩らの前やったら、簡単に毒吐けるぐらい度胸あんのに、先輩のまえやとただのヘタレやんか。
やけど、目は逸らさんと、最後まで言い切った。
途端に、真っ赤に染まった顔を隠すように俯いた先輩。
恥ずかしいんかな。
まあ、俺もやねんけど。
ゆっくり、先輩に手を伸ばした。低体温プラス、肌寒いこの季節の所為で、手が冷たい。
つ、と赤い先輩の頬に、指を滑らせた。
びっくりするくらい、手が震えとる。
触れた瞬間、先輩の肩がすこし、跳ねた。
それは触られたんが嫌なんか、手の冷たさの所為なんかは、分からんけど。
指から伝わる先輩の肌の感触、温かさ。
ずっと、それこそ永遠に触れときたい。
図書室に、ふたりきり。
先輩が、俺だけのモノみたいや。
馬鹿みたいな思考。
やけどそれは俺の本心でもあったりするわけで。
「すき。だいすき、あいしとんねん、せんぱい」
だから、どうか伝わって。
あまく、あまく耳元にくちびるを寄せて囁いた。
んっ、とくすぐったそうに小さな吐息が漏れた。
やば……めっちゃかわいいねんけど。
妙に艶めかしい先輩の声に、心が震えた。
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされた、ような……。
苦しい、というよりも、甘くて、切なくて、もどかしい、そんな感じ。
いうなれば、甘い締め付け。(どんなけ女々しいねん、俺)
「光くん……あたし、その……好きな人はおらんけど、タイプが自分よりも大人な人やねん。だから……」
「知ってます」
「っじゃあ!!」
「それでも、先輩が好きなんっスわ」
勢いよく顔を上げた先輩の両頬を掴んで、かなり無理やりやけど、目を合わせた。
驚いたように、先輩の瞳が揺れた。
……俺が、映っとる。
こげ茶の瞳、いっぱいに映った俺。
先輩の世界は、今、俺が独り占めしてるんや。
クツクツと、無意識のうちに喉が鳴る。
これでも、まだ俺が年下にしか見えらん?
鼻と鼻の先が触れそうなほどに近付いて、俺の世界を彩る先輩を見つめた。
あかん、まじで好きすぎる。
クールだとか言われ続けた俺に似合わないほどに、心臓の音が煩い。
先輩に聞こえてまいそうなぐらい。
(止まれ、俺の心臓!)
(いや、止まったらあかんけど)
得意のポーカーフェイスさえ、このヒトの前だと崩れ去ってまいそうで、正直怖い。
照れたような反応しかみせずに、拒否することをしない先輩に、ゆっくりと、顔を、もっと近づけた。
ふたつの影が、重なってひとつになる。
「(あま………)」
熟した果実みたいな、あまい、病み付きになりそうな、そんなくちびる。
なんで、なんも抵抗せぇへんのや……。
期待してまうやんか、ボケ。
心の中で悪態を付いた。
やけど、鼻を掠める先輩の香りが、そんな思考なんか奪い取ってまう。
数秒だったかもしれらんし、数十秒やったかもしれらんキスは、銀色の名残を残してはなれた。
まだ、あの甘い感触が残っとる。
「俺、確かに先輩より年下やし、やから年上にはなれへん。その事実は変わらん」
頬に添えた手は、放さない。赤く熱を持った頬は俺の冷たい手にはちょうどいい。
「けど、精神年齢やったら俺のが大人やで、せんぱい」
せんぱい、ちっこいこどもみたいやし なんて心の中で呟いて。
きゅっと口元を吊り上げた。
悩んどる悩んどる。
視線を泳がせて何とか目を合わせないようにしてるらしい必死な姿、めっちゃかわいいんやけど。
やさしい、あまいシャンプーの匂いのする先輩の髪に、そっと指を通した。
(やらかー)
(俺の硬い髪とは大違いやわ)
そうして、ぎゅー、と抱きしめればさらに強い、先輩特有の甘い香り。
なんで女って、こんなええ匂いすんのやろ。
未だに口を開かないことなんか予想済み。
でも、抵抗せぇへんのは、ちょっと期待してまうねんけどなぁ。
薄汚れた期待が、胸からあふれ出しそうや。
これ、ほんまキツイ。
すぐに理性ぶっ飛ぶわ。
「なあ、先輩。俺じゃ、あかんの?」
「――――――…………そんなこと、ない」
「!!」
ポツリと呟かれた、小さな言葉。
俺の体は脳よりも早くその言葉を理解して、行動に出た。
さっきよりも強い力で、先輩を抱きしめた。
驚いたように、先輩が身を捩った。
けど、鍛えとる俺と先輩とでは力の差がありすぎる。
ついにはあきらめて、大人しく俺の腕に抱かれた。
ああ、これは夢とちゃうんやろか。
そのとき、遠慮気味に先輩の腕が、背中に伸びた。
うそ、やろ……!?
けど背中にあるんは紛れもなく手の感触。軽く衝撃を受けた。
あったかい手が、ジャージ越しに俺へと体温を届ける。
これは、期待してもええ展開ちゃう?
そんなら、べつにええやんな。
キスしても。
ちゅう、と頬にくちびるをくっつけた。
ひぁ、という甘い声が鼓膜を震わせて、俺をさらに熱くさせる。
そんでもって、おでこにも、まぶたにも、耳にも鼻先にもほっぺにも、啄ばむ様なキスの嵐を降らせた。
……やばい。
先輩の目が、とろんとしたモンに変わった瞬間、本能的にそう感じた。
アカン、これ以上したら俺理性持たんで死ぬ……!
「あの、えーっと光くん。あたし、年下も、イケちゃうかも」
「…………………年下も……?」
「……もちろん、光くんだけデス」
なぁんにも、実年齢だけが、基準とちゃいますやろ?
大人になったら、そんなんひっくり返したりますわ。
だてそうやろ?
恋愛なんかに、年なんか関係あらへんもん。
攻めたモン勝ち、っちゅーことっスわ。
「好きやで、先輩」
「あたしも、光くん好きやで」
もう一生、離したりませんで?覚悟、できとります?
この度は素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
まだまだ表現力なんてものありやしませんが、まあいいんじゃねえの?と思っていただけたら幸いです。
もし、あきに感想なんか送ってやろうじゃないか!という方がいらっしゃいましたら
une_chanson_du_bonheur@live.jpまでどうぞ!返事は必ず返させていただきます。
それでは、また皆様に会えることを願って。
あき
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